熊坂について
9月6日の松能会で武田崇史氏の熊坂がございます。
私は昭和54年武田同門会で勤めさせて頂きました。高校2年でした。
舞囃子は数回勤めましたが、能は一度だけです。
この曲は能にして能にあらず業にて致し候といわれるほど、後シテの熊坂長範の長刀の扱いを重きにおいてある曲です。
熊坂の年齢は63歳ですが霊として登場しますので、老体で演じません。
熊坂がシテの曲は他に烏帽子折(えぼしおり)という曲がありますが長刀は使いません。
長刀を扱う曲は船弁慶、巴、碇潜(いかりかずき)などがありますが、その中でもこの熊坂は特に激しく複雑な型を致します。
長刀は能楽師にとりましてとても重要で、私は仕舞と舞囃子の稽古を先代太加志先生と師匠のお二人にして頂きました。
とても厳しく教えていただきましたが、なかなか思うようにいかず悔し涙を流した記憶がございます。
その当時私のまわりには当代御宗家、観世元昭先生御子息清顕氏、関根祥人氏がいらして、お三方の素晴らしい姿に憧れておりました。
それほど年齢も違わないのに、まるで別世界の人のように思えました。(そのうちのお二人がおられないのが悲しいです)
私が中学生の頃、ある囃子会で高校生の関根祥人氏が熊坂の舞囃子を舞われました。(矢来能楽堂でした)それはそれは素晴らしく今でも目に焼き付いています。
長刀を扱ってもぶれない下半身の頑強な姿、飛び返りの高さ。私のレベルでは全くかなわないと思いました。圧倒されたお舞台でした。つづく